2025年の製造業は非常に忙しい一年になると予想されます。
シリコンサイクルによる需要動向、世界情勢の不安定さなど様々な観点で、2023・24年の振り返りや、2025年の展望予想、今準備しておくべきことをまとめていきたいと思います。
目次
2023・2024年の振り返り
新型コロナウイルスの収束
2022年から2023年頃は、新型コロナウイルスのパンデミックによる製造業への影響が収まり始め、市場が活性化していく転換期となりました。
2023年5月5日には、世界保健機構(WHO)による緊急事態宣言の終了が発表され、物流や輸送の制約が徐々に緩和され、半導体など部品の不足といった問題も解消に向かい始めたとともに、
パンデミック直後には大きな変動のあった需要が落ち着きを取り戻し始めた時期になります。
半導体バブルの波
これまでの半導体バブルの流れを以下に振り返ります。
(引用:世界半導体市場統計(WSTS) 2024年秋季半導体市場予測について|JEITA)
2021~2022年(回復期・ピーク期) | ・新型コロナウイルスのパンデミックにより、リモートワークやオンライン学習が増加し、PCやサーバ、ゲーム機などの需要が増加 ・自動車の電動化やADAS(先進運転支援システム)の普及で半導体需要が増加 ・供給不足で価格高騰 |
2023年(崩壊期) | ・半導体メーカーが大規模な増産を行い、需要を供給が上回る ・経済の減速や消費者支出の縮小により、需要が鈍化 ・過剰在庫が発生し、価格下落 |
2024年(回復期) | ・AIや次世代通信(6G)、自動車の完全自動運転技術など新しい需要が牽引 ・半導体市場は持続的な成長に戻ると予想される |
2020年から2021年にかけては、外出規制や移動制限により自宅で過ごす時間が増え、ゲーム機やテレビ、空気清浄機など家電製品の需要が増加しました。
また、リモートワークやオンライン授業が増えたことで、モニターやWebカメラ・マイクなどの需要が増えるとともに、PCやサーバなど企業単位で整備が行われたことも需要増加の手助けとなり、2021年の世界半導体市場は前年比+26.2%の増え幅となりました。
しかし2022年から2023年にかけては、バブル形成期の需要増加に伴う過剰生産と、需要が落ち着き始めたことが原因で、2022年は前年比+3.3%と増え幅が大きく縮小、2023年は前年比-8.2%と低調で、半導体需要が2022年途中から失速したことが報告されています。
2024年には、AIや次世代通信・自動運転技術など技術の進展に伴い、前年比+19%の再拡大、2025年も前年比+11.2%とさらなる市場拡大が予測されています。
2022年から2023年にかけての過剰在庫が徐々に適正な水準に戻り、製造業の状況は安定し始めています。
2025年に予想されること
2025年にはいくつかの重要な出来事が予定されています。特に注目すべき点は以下の3つです。
シリコンサイクルの波の到来
(出所:世界半導体市場統計(WSTS)|JEITA資料から作成)
先ほどご説明したシリコンサイクルの波「ピーク期・崩壊期・回復期」は、約3~4年のごとに繰り返す傾向があります。
過去のサイクルを見てみると、2010年から2016年までの市場拡大幅は大きくないものの、その増減は約3~4年周期であることが分かります。
近年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でその傾向が顕著になっていました。
この傾向から、直近のピーク期は2021~2022年に迎えているので、2025年に再びピーク期を迎える可能性が示唆されているのです。
世界半導体市場統計(WSTS)は半導体市場動向について、Total ICが12.3%増、次にSensorが7.0%増、Total Discreteが5.8%増と予想しています。
WSTSが定義したTotal ICとは、ICーロジック(CPUやGPU等)や、ICーメモリ(DRAMやフラッシュメモリ等)、ICーマイクロ(MPU等)、IC-アナログの総計を、
Total Discreteとは、ダイオードやトランジスタ、サイリスタなどを、
Optoelectronicsとは、光ファイバーやLEDなどを、
Sensorは、C-MOSや加速度計、温度センサーや圧力センサーなどを指します。
(引用:世界半導体市場統計(WSTS) 2024年秋季半導体市場予測について|JEITA)
またTotal ICのカテゴリ別市場予測では、Logicが16.8%増、Memoryが13.4%増と、いずれも拡大が予想されています。
上記から、AI技術の進展に伴いAI関連半導体を中心に自動車関連、産業用機器の需要が市場成長を牽引していくと予測されます。
さらに、世界半導体製造装置市場は2026年に過去最高の1,390億ドルへ到達すると予想されています。
(世界半導体製造装置の2024年末市場予測発表 半導体製造装置市場は2026年に過去最高の1,390億ドルへ到達|SEMI)
トランプ大統領の再就任
今月20日、トランプ大統領は就任初日に大統領令や覚書を次々と打ち出しています。
また、早ければ2月1日から、メキシコからカナダに対して25%の関税を、中国の製品にも10%の追加課税を課す考えを示しています。
これらは、不法移民や合成麻薬がアメリカに流入していることに対する政策ですが、「輸入品に対し一律に課税」することから、製造業にも影響が及ぶと見られています。
(引用:No.189「もしトラ」のシミュレーション分析|アジア経済研究所(JETRO))
上記表は、アメリカが中国の対する関税の引き上げを行った場合の影響を、産業・国・地域別にシミュレーションしたものです。
アメリカの場合、自動車産業が3.9%減と大きな影響を受けています。
一方、国内で代替生産のできると考えられている繊維・衣類産業では5.2%増となっています。
中国からアメリカへ輸入される製品に追加関税が課せられれば、消費者が購入する価格に転嫁せざるを得なくなり、アメリカ経済は損失を被るとの予測がされています。
日本やASEAN10などではプラスの影響を受けていますが、これらは中国から輸入していたものがその他の国で代替生産されると考えられているためです。
また、メキシコやカナダにおいても主要輸出国がアメリカとなっており大きな影響を及ぼすでしょう。
特に海外に生産拠点を展開するアジアの自動車・電子機器メーカーにとっても、様々な問題が生じる可能性があります。
製造業が今準備すべきこと
2025年に向けて、製造業が備えるべき具体的な対策を以下4つにまとめます。
在庫管理の強化
過去の半導体バブルでは在庫不足が混乱を招きました。
その教訓を踏まえ、適切な材料の在庫を確保することが重要です。
適切に在庫管理を行えば、在庫余剰による保管場所の占有、不足による販売機会の損失などを防ぐことができます。
初期費用を比較的抑えたい場合はExcelで在庫管理表を作成したり、より迅速かつ確実な管理を行いたい場合は在庫管理システムを導入するなどして、業務の効率化を狙うと良いでしょう。
また今年、円安傾向が続いており、特に2022年以降、円の価値は主要通貨に対して下落傾向にあります。
原油価格の上昇による輸送費や輸入する原材料の高騰が今後どうなっていくのか、見極めが必要になるでしょう。
人材確保と育成
少子高齢化に伴い、国内の労働力人口は年々減少しています。
さらに工場勤務に対する「3K(きつい・汚い・危険)」といったネガティブイメージも、製造業の人材不足を助長しています。
労働環境を改善するとともに、SNSなどを活用して企業について積極的に発信していくことで、ネガティブイメージを払拭していきましょう。
また近年、生産ラインの自動化や効率化のために、AIやロボットを活用した現場が増えている傾向にありますが、それを運用する人材の育成も重要です。
教育プログラムの導入や工場のスマート化など、設備に加え人的資源に対する投資も今後必要になるでしょう。
人材確保は今後の企業競争力の鍵となり、優先的に取り組むべき課題です。
サプライチェーンの構築
過去、新型コロナウイルスのパンデミックや世界情勢の不安定さなどにより、原材料確保は不確実なものになりました。
世界情勢は未だ不安定であることから地域的に分散したサプライチェーンの確保・構築を行うとともに、
輸送コストやリスクを考えた供給ルートの確保しておくと良いかもしれません。
先述した適切な在庫管理・需要予測の上で、適応力のある材料確保を行っていきましょう。
まとめ
この記事では、製造業の2023・24年の振り返りや、2025年の展望予想、今準備しておくべきことをまとめました。
2023・24年の振り返り
・2023年は新型コロナウイルス収束によって、市場が活性化した転換期 ・半導体市場に関しては、2021・22年に比べ23年は需要が鈍化し過剰在庫となったが、24年は回復期となった 2025年に予想されること ・AIや自動車産業を中心に半導体市場の活性化 ・他国(中国など)からアメリカへの輸入追加関税 製造業が今準備するべきこと ・世界情勢や円安の動向を見極めた適切な在庫管理 ・製造業へのネガティブイメージ払拭と人材確保、AIやロボットを運営するための人材育成 ・不安定な世界情勢に備えた適応力のあるサプライチェーン構築 |
2025年の製造業は、需要の再拡大と不安定な世界情勢という二面性を持つ年になるでしょう。
製造業にとっては、適切な在庫管理、人材確保・育成、サプライチェーンの構築などを早急に進めることで、この波をチャンスに変えることができるはずです。
不安定な状況の中でも、柔軟に対応できるよう備えておきましょう。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。

中小製造業の経営者でしか知りえないリアルな情報を発信
【主な経歴】リクルート出身。数々の個人賞を受賞し、GMを歴任
【御津電子での実績】苦しい工場経営を1年でV字回復。技術力と人材育成を通じて、日本を代表する企業を目指している
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