関税ショックにどう立ち向かう?日本製造業の危機と求められる判断とは


トランプ大統領が発動した「相互関税」に関しての動向が注目されています。
日本も例外ではなく、24%の関税がかけられるなど影響が出てくるのは必須で、日経平均株価も大幅な下げ幅を出していましたが、

4月9日、「報復措置を講じていない国に対して、税率の一部を90日間停止する」と発表。

日経平均株価も一時、前日終値に比べて2300円超の上昇を見せました。

今回の記事では、関税措置の動向や製造業への影響、対策をまとめていきます

「相互関税」とは

日付 アメリカの動き その他の国の動き
1/20 トランプ氏が大統領に就任
2/1 ・カナダ・メキシコに対し25%の関税発表(2/4から発動)

・中国に対し10%の関税を発表(2/4から発動)

2/2 ・カナダ:25%の報復関税発表
2/4 ・カナダ・メキシコに対する関税を3/4まで停止 ・カナダ:報復措置も停止

・中国:報復措置第1弾として、アメリカ産の石炭や液化天然ガス(LNG)、原油などに10~15%の関税(2/10から発動)

2/10 ・輸入する鉄鋼・アルミニウム製品に25%の関税発表(3/12から発動) ・中国:報復措置第1弾発動
3/4 ・カナダ・メキシコに対して25%の関税再開

・中国に対しさらに10%の追加関税発動(総計20%)

・中国:報復措置第2弾として、綿やトウモロコシなど農畜産物に対して10%~15%の関税を発表(3/10から発動)
3/6 ・カナダ・メキシコの対する25%の関税について、アメリカ・カナダ・メキシコ協定(USMCA)に準拠した製品は4/2まで延期の発表
3/10 ・中国:報復措置第2弾発動
3/12 ・輸入する鉄鋼・アルミニウム製品に25%の関税発動
4/2 ・「相互関税」発表(日本24%、EU20%、中国34%などを予定)
4/3 ・輸入する自動車に一律25%の関税発動
4/4 ・中国:報復措置第3弾として、アメリカからの全輸入品に対し34%の関税発動
4/5 ・相互関税の内、全ての国に適用される一律関税10%の発動
4/9 ・相互関税の上乗せ発動(日本総計24%、EU総計20%、中国は報復措置を受けて当初予定していた34%に+50%の84%、相互関税発表前の20%と合わせて総計104%)

・報復措置を取っていない国に対しては、一律10%を除く上乗せ分を90日間停止措置を発動

4/10 ・中国の報復措置第4弾を受け、相互関税+41%の125%、総計145%に引き上げる措置を発動 ・中国:報復措置第4弾として、アメリカに対する34%の関税を84%に引き上げる措置を発動
4/12 ・中国:報復措置第5弾として、アメリカに対する84%の関税を125%に引き上げる措置を発動

今年4月2日、アメリカの貿易赤字を是正し、関税負担を相手国と対等にすることを目的として発表された、新たな関税政策「相互関税」。

アメリカへの「すべての輸入品に対して一律10%」の基本関税に加えて、それぞれの国に対して貿易赤字の大きさに応じた特定の関税を課します

例えば、相互関税発表の4月9日時点であれば、

中国からの輸入品には、一律の基本関税10%+対中国の相互関税74%+相互関税発表前に発動の20%=総計104%の関税。

EUからの輸入品には、一律の基本関税10%+対EUの相互関税10%=総計20%の関税。

日本からの輸入品には、一律の基本関税10%+対日本の相互関税14%=総計24%の関税となっています。

(※自動車、鉄鋼・アルミニウムに対する関税は各25%)

この政策発表により、日経平均株価も大きな下げ幅を出していました。

しかし相互関税発表同日、トランプ大統領は「報復措置を講じていない国に対して、税率の一部を90日間停止する」と発表。(※自動車、鉄鋼・アルミニウムに対する25%の関税は継続)

一律の基本関税10%は継続しますが、報復措置を講じていない国への相互関税は当面停止となります。

これにより、日経平均株価も一時、前日終値に比べて2300円超の上昇を見せました。

一方、アメリカへ84%の報復関税を決めた中国に対しては、相互関税を125%まで引き上げ、総計145%とする措置を発表しました。

さらにこれに対し中国は、アメリカに対して関税を125%まで引き上げる報復措置を取っています。

製造業への影響

自動車産業への大打撃

(出典:第1章 業況 第1節 製造業の業績動向 業種別GDP構成比|経済産業省

(出典:基幹産業としての自動車製造業 2022年の主要製造業の製造品出荷額等|一般社団法人 日本自動車工業会

上記表は、2022年時点の業種別GDP構成比を表したものと、全製造業の製造品別出荷額を表したものです。

2022年時点で、製造業は日本のGDPの19.4%を占めており、日本経済にとって極めて重要な産業と言えます。

その中でも、自動車関連産業は63兆円と全製造業出荷額の17.4%となっており、就業人口は558万人にのぼります。

また、日本の自動車の輸出相手国順位は、2023年時点でアメリカが58,439億円と1位であり、自動車総輸出額の33.8%を占めています。(2023年時点)

(引用:日本の自動車輸出相手国上位10ヵ国の推移|税関 Japan Customs

このような中、トランプ大統領は今月3日、アメリカに輸入される自動車に25%の追加関税を発表しました。

輸出の減少や生産の縮小、雇用の悪化が連鎖的に起こるリスクが高いといえます。

自動車メーカのホンダは、主力車種の生産をカナダとメキシコからアメリカに移管する検討をしていると発表しました。

アメリカで最大3割増産し、アメリカでの販売台数の9割を現地生産でまかなえるようにする方針です。

(引用:ホンダ、米国で現地生産9割に 関税で「隣国から輸出」転換|日本経済新聞

また、日本からアメリカへの総輸出額202,602億円の内訳は、自動車が58,439億円(28.8%)、原動機が10,814億円(5.3%)、次いで自動車の部分品10,758億円(5.3%)と自動車関連が上位を占めており、

影響は、自動車産業にとどまらず、関連する部品メーカー、物流、サービス業など幅広い分野に波及し、日本の内需や雇用にも悪影響を及ぼす可能性があります。

25%の関税が日本製造業、とりわけ自動車産業に与える影響は非常に大きく、経済全体に深刻な打撃を与える可能性が高いといえるでしょう。

半導体業界の懸念

トランプ大統領は「半導体や医薬品を輸入に頼っていることが与える、アメリカの国家安全保障への影響」の調査を開始するなど、半導体および半導体製造装置の輸入品へも関税を課すことが懸念されてます。

スマートフォンなど電子機器を含め、相互関税の対象外だと発表されていましたが、今後、相互関税とは別に半導体関税が導入される見通しです。

NVIDIAは、4年間でアメリカのAI関連インフラ設備に最大5000億ドル(約72兆円)を投じる計画を発表しました。

すでにAIチップの新製品「ブラックウェル」はアリゾナ州での製造を開始しており、今後AIスーパーコンピュータの生産もテキサス州で行う方針と、トランプ大統領の関税政策の影響で業界は動きを見せ始めています。

日本の半導体製造企業への影響は、売上高に占める米国向け比率は10%程度である企業が多く、直接的な影響は限定的との見方が強い一方で、世界経済の減速による間接的影響を危惧する声も強くなっています。

(引用:トランプ関税を半導体や電機各社が警戒、「大きな環境変化」と村田製作所|日経クロステック

半導体関税に関するトランプ大統領の動向に注目です。

雇用への悪影響

輸出減少による生産工場の稼働減少や生産拠点の見直し等が起これば、雇用にも影響を及ぼします。

例えば、​日本の自動車産業は約560万人の雇用を支えており、これは全労働力の約8%に相当します。 ​

また、自動車には1台につき約3万部品が使用されていると言われており、自動車産業に大きな影響があれば、それに付随して部品メーカー等の雇用にも確実に波が及ぶでしょう。

サプライチェーンの混乱

関税をかけた相手国との貿易がやりにくくなると懸念されるのが、サプライチェーンの混乱です。

日本は、輸入全体の約22%を中国が占めており、品目別では、通信機や電算機気が上位を占めています。

アメリカとの競争激化で中国の市場が不安定になると、それらの仕入れも不安定になる可能性があるでしょう。

​部品メーカーや関連企業も打撃を受け、業界全体の効率性低下が予想されます。

製造業界ができる対策は?

サプライチェーンの再構築

今回のトランプ大統領による関税政策のような「貿易障壁」が起きると、調達・生産・物流が一気に不安定になります。

輸入主要国である中国だけでなく、他の国からも調達できる体制にしておくことで、リスクを分散させることができます。

また、自動車メーカのホンダのように、現地市場向けには現地生産を行うことで、輸出を減らすことも有効です。

補助金を活用

経済産業省は、関税の影響を受ける中小企業向けに特別相談窓口を全国約1,000ヵ所に設置し、資金繰り支援や補助金の優先採択を行っています。 ​

日本政策金融公庫などが実施する「セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)」は、社会的、経済的環境の変化など外的要因により、一時的に売上の減少等業況悪化を来しているが、中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれる中小企業・小規模事業者が対象の貸付制度です。

「最近3ヵ月の売上高が前年同期または前々年同期に比し5%以上減少しており、かつ、今後も売上減少が見込まれる方」など対象要件はいくつかありますが、関税措置により資金繰りに著しい支障をきたしている又はきたす恐れのある方も対象となります。

(参考:経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫

また、革新的な新製品・新サービス開発、海外需要開拓を行う事業に必要な設備投資費等に対して補助が受けられる「ものづくり補助金」も、関税措置の影響を受けた企業が優先採択される見込みとなっています。

(参考:ものづくり補助金総合サイト|ものづくり補助事業

これらの支援策を積極的に活用することで、経営の安定化を図ることができます。​

国内生産への回帰とスマート工場化

海外に生産拠点を置いている企業は、国内生産に一部回帰することで、関税措置による貿易リスクの増大や、サプライチェーンの不安定化を防ぐことができます。

これまでは、人手不足や生産年齢人口の高齢化、海外の方が人件費が安いという考えが、国外に生産拠点を置く理由の1つでもありました。

しかし、ロボットなどで生産ラインを自動化したり、AIを使ってDXを進めたりするなど、スマート工場化を推し進めることで、工場の生産性・品質・安定性を最大化し、人件費を削減することができます。

生産拠点の回帰の有無に関わらず、IoT活用やDX化を進めスマート工場化を目指すことは、これからの製造業にとって成功への大きな鍵になるでしょう。

(参考:製造業におけるIoT活用のメリット・デメリット!失敗しないIoT活用方法とは|御津電子株式会社

(参考:製造業のDXが成功する鍵とは?AI活用が生み出す製造業の未来|御津電子株式会社

まとめ

円安が製造業に与える影響

今回は、トランプ大統領による関税措置の動向や製造業への影響、対策をまとめました。

〇相互関税とは

・アメリカの貿易赤字を是正し、関税負担を相手国と対等にすることを目的として発表された、新たな関税政策

・対日本には24%(上乗せ分を90日間停止措置)、対EUには20%(上乗せ分を90日間停止措置)、対中国には145%

〇製造業への影響

・日本の全製造業出荷額の17.4%を自動車産業が占めている中、自動車に対しては25%の関税が課せられ、大打撃

・自動車産業にとどまらず、関連する部品メーカー、物流、サービス業など幅広い分野に波及し、悪影響を及ぼす可能性あり

・相互関税とは別に半導体関税が導入される見通しで、半導体業界も世界経済の減速による間接的影響を危惧

・輸出減少による生産工場の稼働減少や生産拠点の見直し等が起これば、雇用にも悪影響

・サプライチェーンの混乱の可能性

〇製造業界ができる対策

・サプライチェーンの再構築

・補助金の活用

・国内生産への回帰とスマート工場化

ピンチやリスクを語り始めるときりがありません。

コロナ禍でも、限られてはいますが成功した経営者はいます。

今だからこそできる挑戦をすることが求められているのです。

強いリーダーシップを活かして、自らの会社の強みを改めて発見してください

この状況をチャンスに変えることができるのは、経営者の判断力次第となります。