リード線は既に不足し始めています。
日本銅電線工業会は、建設用を始め一部電線ケーブルの受注停止を発表しました。
原材料の不足や価格高騰、再生可能エネルギー関連施設の需要増加により、リード線の供給不足が起こっているのが現状です。
加えて2024年度は、大阪万博や天神ビックバンなどの大型開発、自然災害による供給ラインへの打撃、シリコンサイクルの影響によって需要は高まる見通しです。
今回は、今できるリード線不足への対策をお伝えしていきます。
目次
リード線における現状
2023年度の現状を2つ、ご説明します。
原材料の高騰
世界情勢の不安定さが石油価格の高騰に影響し、銅などの主要原材料の価格が上昇しています。
日本の石油は99.7%を海外からの輸入に依存。
輸入先はサウジアラビアなど中東地域が9割以上を占め、次いでロシアとなっています。
(引用元:日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」|経済産業省)
今後も、中東紛争やウクライナ侵攻が激化すれば、価格は急騰する可能性が高いでしょう。
また、電気料金の値上げも原材料の高騰に影響しています。
電気料金の値上げが製造コストに影響し、さらに石油価格高騰による運送料の値上げが追い風となり、原材料も高騰。
値上げのラインができてしまっています。
需要の増加
脱炭素社会への移行に伴い、太陽光や風力など再生可能エネルギー関連施設の需要が増加。
これがリード線の供給不足を招いています。
令和4年度の国内供給動向は、化石燃料は同1.9%減の一方、再生可能エネルギーは10年連続で増加しています。
また、経済産業省は2023年に「今後の再生エネルギー政策について|資源エネルギー庁」政策をまとめており、
海底直流送電の整備や蓄電池の導入加速、次世代型太陽電池の活用などを基本方針としています。
リード線の需要動向にさらに注意しなければなりません。
今後の影響
加えて、以下3つの影響も考えられます。
新規プロジェクト
熊本県の半導体工場「TSMC」新設、大阪万博、福岡県の天神ビックバンなどの大型開発が、リード線の需要を一層高めます。
半導体の受託生産で世界シェアトップの「TSMC(台湾積体電路製造)」が熊本県に新設されました。
台湾からは約600人余りが来るとされており、住宅の増加や、交通渋滞解消のためのインフラ整備、2024年の工場稼働に向けてリード線の需要は高まる予想です。
またTSMCは、日本での第2工場建設の意向も明かしており、さらなるリード線の不足や需要増加も懸念されます。
そして2025年に開催される大阪万博は、早くも影響を及ぼし始めています。
建設工事の進捗は芳しくないものの、建設用のケーブルは一部受注停止となっています。
(引用:“仕事できなくなるのは死活問題” 不足する電線ケーブル|NHK)
建設が進み、インフラ整備が行われるとなれば、いずれリード線にも影響が及ぶでしょう。
さらに天神ビッグバンにおいては、2015年に計画され、2021年より第一号が竣工されましたが、完成予定は最長で「2030年以降」と長期的な影響が考えられます。
自然災害
様々な自然災害は供給ラインに打撃を与えます。
台風や豪雨・地震が起これば、工場の停止や運送時の貨物の損害、インフラの壊滅により供給が停止し不足を悪化させるのです。
2023年元日の能登の大地震も影響を与える可能性が高くなりました。
シリコンサイクル
シリコン製品の需要増加もリード線の不足に拍車をかけています。
今年は、半導体の「2024年問題」が噂されています。
シリコンサイクルの流れやコロナ禍での需要増加への対策として、22~23年にかけて多くの生産工場が新設されましたが、その多くが稼働し始めるのは2024年。
加えて、2024年には半導体の需要が落ち着くと予想されており、供給過剰になるのではないか。これが「2024年問題」です。
しかし、米中の経済摩擦(半導体関連機器の輸出規制)やウクライナ侵攻などの世界情勢から、供給過剰は起きないとの見方もあります。
実際、半導体の需要は年々右肩上がりです。
需要が落ち着くのは一時的なものであり、またすぐに増加するのではないでしょうか。
(引用元:データ集 第4章 第5節 21項|総務省)
今できる対策
私たちが今できることは4つあります。
在庫管理の最適化
在庫管理を見直すことは、供給が不安定になったときに向けての重要な準備となります。
過剰に抱えすぎると、保管場所の確保や棚卸などの作業工数増加に繋がります。
反対に不足してしまえば、生産ラインのストップや販売機会の損失に繋がります。
在庫管理システムを導入したり、Excelで在庫管理表を作成したり、自社に合った方法で管理していきましょう。
需要と供給の予測モデルを立てた上で在庫管理を行うことで、柔軟な対応策を検討することができます。
購入
建設用電線ケーブルに次いでリード線も受注停止する可能性は大いにあります。購入して適切に在庫を抱えておくのも吉でしょう。
現在のサプライヤーに在庫の確認をおこない追加の線材を確保できるか交渉してみたり、複数のサプライヤー活用を検討したりすることで、供給の確実性が高まります。
しかし、過剰に在庫を抱えたり、買い占めしたりすることは自社や製造業界のためにはならないので、おすすめはしません。適切な範囲内で購入しましょう。
代替素材の検討
銅に代わる素材のものを使用することも選択肢の1つです。
例えば、鉄(鋼)に銅をメッキしたCP線。
コストを優先する場合はCP線を使うこともあるようです。
ただし注意点として、代替材料が同様の機能を果たせるかどうかを確認することが必要となります。
リサイクル
使用済みの電線を廃棄するのではなく、リサイクル業者に回収してもらうことは、根本的な原材料不足を防ぐことに繋がります。
国際銅協会によりますと、過去10年間のリサイクル資源に由来する銅の量は、世界で生産された銅の半製品の平均約30%程度となっています。
世の中には眠っている銅が多く、リサイクル率を50%程に引き上げることが期待されています。
また2023年の銅需要は年間約2,300~2,500万tと推計されていますが、2030年には4,000万t、2035年には約5,000万tに拡大する可能性があると言われています。
些細なことではありますが、廃棄ではなくリサイクルを選択することで、今だけではなく将来のためにもなるかもしれませんね。
まとめ
この記事では、リード線不足の現状と対策を解説しました。
リード線不足の原因
・石油価格高騰に伴い、銅などの原材料の価格も上昇している ・太陽光や風力など再生可能エネルギー関連施設の需要増加 ・工場新設や都市開発など新規プロジェクトが始動 ・自然災害による供給ラインへの打撃 ・半導体製品の需要増加 今できる対策 ・在庫管理の最適化 ・適切な範囲内での購入 ・代替素材の検討 ・廃棄ではなくリサイクルを選択 |
半導体バブルは落ち着きを取り戻していますが、次はリード線問題が発覚。
制御装置にはもちろん、日常生活を送る上で欠かせない物となったPCやスマートフォンはリード線を必須としており、その影響は甚大なものになります。
需要と供給のバランスを見通し、今のうちから備えておくことで、この危機を乗り越えましょう。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
中小製造業の経営者でしか知りえないリアルな情報を発信
【主な経歴】リクルート出身。数々の個人賞を受賞し、GMを歴任
【御津電子での実績】苦しい工場経営を1年でV字回復。技術力と人材育成を通じて、日本を代表する企業を目指している
【講演実績】
おかやまテクノロジー展(OTEX)2022 『仲間と共に歩むV字回復ストーリー』
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