働き方改革関連法案が、大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日から施行されました。長時間労働の解消や非正規社員と正社員との格差是正などを目的としています。物流業界でも2024年4月から長時間労働解消を目的に、新しい法律が施行されます。2024年4月から施行される物流関連の法律による影響の総称を「2024年問題」と言います。
以前の記事では半導体と製造業における2024年問題について解説いたしました。
>>【2023年最新】半導体と製造業の2024年問題。半導体を作る会社と使用する会社が出来る事
この記事では、物流の2024年問題の詳細と2024年問題による製造業のリスクと対策について解説します。
製造業者にとっては、非常に役に立つ情報となっていますので、最後までご覧ください。
目次
物流の2024年問題とは
「物流の2024年問題」とは、2024年4月1日以降に自動車運転業務の時間外労働を960時間に制限することで生じる諸問題の総称のことです。
長距離輸送に従事する運送会社の4割以上に影響が出ると見込まれています。
2024年4月までは時間外労働時間が年間1,188時間だったので、年間で228時間の減少です。大王海運株式会社は、時間外労働の短縮により、輸送能力が約2割減少すると予想しています。
時間外労働時間短縮によりドライバーの給料が減少し、離職につながる可能性があり、さらなる輸送能力の低下が懸念されています。
物流と製造業の関係性
「物流の2024年問題は物流業界の問題だから、製造業者にとっては関係ないと思うんだけど…」と思われる方もいるかもしれません。
物流業と製造業とは非常に密接に関わっており、製造業の生産活動を支えるためには物流が不可欠なのです。
製造に使用する原材料の供給、自社製品の出荷など、製造業は物流業がなければ成り立たないほどです。
「物流の2024年問題」の影響は、製造業者も無視できないでしょう。
「2024年問題」により予想される製造業のリスク
「物流の2024年問題」によって、製造業も大きな影響を受けます。
他業種の問題だからと見て見ぬふりをすると痛い目に遭いますので、「物流の2024年問題」により予想される製造業のリスクを理解しておいてください。
「物流の2024年問題」により予想される製造業のリスクは以下の3つです。
1.必要なものが必要なところに届かない
2.コストの上昇 3.リードタイムの短縮 |
それぞれ詳しく解説していきます。
必要なものが必要なところに届かない
従来よりも年間でドライバー1人あたりの運転時間が200時間以上短くなるので、現状運べているものが運べなくなる可能性があります。
特に納期の厳しい輸送や付帯作業が発生する輸送は、運送会社から敬遠されるリスクが高くなるようです。
敬遠されるものが原材料であれば、製造業者は「モノが作れない」状態になりますし、製品であれば「モノが売れない」状態になってしまいます。
これまでは運送会社に多少無理を言っても、断られずに済んでいたかもしれませんが、2024年4月以降は運送会社と荷主のパワーバランスが変わる可能性があるので注意が必要です。
コストの上昇
労働時間の管理のために、物流業界では中継輸送や高速道路の利用が必要となるでしょう。
しかし、中継輸送や高速道路の利用には追加の費用がかかるため、運賃の引き上げが予想されます。
人手不足を解消するために必要な人件費も増加しています。ドライバーにはこれまでの残業時間が減ることによる収入の減少が起こる可能性があり、事業者はドライバーの収入減少を補うための基本給アップは免れることができません。
ドライバーの給料アップによる運賃の上昇が避けられない状況です。さらに、2023年には中小企業の残業時間の割増率が現行の25%から50%に変更されます。
リードタイムの短縮
リードタイムは、物流のリードタイムと製造のリードタイムに分けることができます。
時間外労働時間の減少により、物流のリードタイムが長くなることが予想されます。今日出荷して、明日にはお客さんの手元に届くことは、これからなくなるでしょう。
お客さんに配達する日程を伸ばさなければ、物流のリードタイムが長くなればなるほど、製造業者は製造のリードタイムを短くしなければなりません。製造のリードタイムを短くすることで、長くなった物流のリードタイムを補填をし、総合的なリードタイムを一定に保てます。
しかし、製造のリードタイムを短くするためには、製造側への負担が非常に大きくなるため、これまで以上に大変になることは間違いありません。
今から出来る2024年問題対策
「物流の2024年問題」による製造業の影響をお伝えしました。何も対策をしていなければ、製品が運べず売上が減ったり、運搬費用が高くなり利益が圧縮されたりするでしょう。
経営者としては、売上の減少や利益の圧縮は避けたいと思いますので、今からできる対策を3つ紹介します。
1.納期短縮に備える、製造リードタイムの短縮
2.船便・JR等、陸送以外の物流手法の検討 3.人材確保 |
それぞれ詳しく解説していきます。
1.納期短縮に備える、製造リードタイムの短縮
1つ目は、製造リードタイムの短縮です。先ほど「物流の2024年問題」によって、物流のリードタイムが長くなるので、製造のリードタイムを短くしなければいけないとお伝えしました。
2024年4月になれば、嫌でも製造リードタイムを短縮しないと対応できないようになってしまいます。いきなり製造リードタイムを短くしようとすると従業員に負担がかかってしまうので、今から徐々に製造リードタイムを短縮できるようにしましょう。
具体的には、設備投資やIT化によるデータの一元管理が考えられます。自分たちにできるところからやっておくと、2024年問題による影響を抑えやすくなります。
2.船便・JR等、陸送以外の物流手法の検討
2つ目は、船便・JR等の陸送以外の物流手法の検討です。「物流の2024年問題」の影響で陸送のコストが上昇すると予想されています。
このまま陸送のみの物流に頼っていると将来もっとコストが上昇する可能性もあります。
どんどんコストが上昇してしまうと、その分利益が減少したり、販売価格を上げたりしなければなりません。陸送だけに頼るのは非常に危険なので、この機会に船便やJRなどの物流手法を検討しておきましょう。
別の物流手法を検討するだけでなく、試しに使ってみるのもとてもいいと思います。
3.人材確保
3つ目は人材確保です。「物流の2024年問題」により、人材を確保するためのコストが上昇すると考えられています。
トラックドライバーの残業時間が減り、給料が下がるでしょう。ドライバーの給料の減少を補うために、運送会社はドライバーの基本給を上げる可能性があります。
今はどこも人材不足なので、人材は取り合いです。ドライバーの給料が上がると人気になり、製造業に就く人が少なくなるかもしれません。
2024年問題により採用コストが上がる可能性があるので、今のうちに人材確保をしておく方がいいでしょう。
まとめ
この記事では、2024年問題の意味、2024年問題による製造業のリスクと今から出来る対策を詳しく解説しました。
この記事のポイントを整理すると以下のようになります。
「物流の2024年問題」とは、2024年4月1日以降に自動車運転業務の時間外労働を960時間に制限することで生じる諸問題の総称。
コスト上昇やリードタイムの短縮などの影響を考慮しなければならない。
今から出来ることは、製造リードタイムを短縮、陸送以外の物流手法の検討、人材確保の3つ。
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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【御津電子での実績】苦しい工場経営を1年でV字回復。技術力と人材育成を通じて、日本を代表する企業を目指している
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