こんにちは。御津電子株式会社の人見です。
2026年2月、大阪商工会議所で約1時間、「人的資本経営の成功事例」をテーマに講演させていただきました。
当日は、日本を代表する大手企業の社長・会長クラスの方々がずらりと並ぶ会場。
さすがに登壇前はかなり緊張しました(笑)。
それでも、「中小製造業の現場で実際に起きているリアルな変化を届けることに意味がある!」と自分に言い聞かせ、できるだけ背伸びをせず、等身大の言葉でお話ししました。
この記事では、その講演内容をあらためて整理しながら、特に中小製造業の経営者の皆さまにとって“明日からのヒント”になるような形でまとめていきます。少しでも参考になればうれしいです。
目次
なぜ今、「人的資本経営」なのか?

ここ数年、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が一気に増えました。
ニュースや経済誌、金融機関との打ち合わせの場でも話題に上がることが多くなっています。
でもこれは、単なる流行語ではありません。
経済産業省が中心となって本格的に推進している経営の考え方で、背景には「日本企業の企業価値をどう高めていくか」という大きなテーマがあります。
少子高齢化や人手不足が進む中で、“人”の価値をどう活かすかが企業の競争力を左右する時代に入っている、という前提があるのです。
ポイントは大きく3つです。
・人材を「コスト」ではなく「資本」として捉える
・人への投資が中長期的に企業価値を高める
・経営戦略と人材戦略をバラバラにせず、一体で設計する
これまでの日本企業は、「人件費をいかに抑えるか」という視点が強かったかもしれません。
しかし今は、「人にどう投資し、どう成長してもらうか」が問われています。
さらに、金融庁は有価証券報告書において人的資本に関する情報開示を求めています。
上場企業を中心に、「どんな人材戦略を描き、どう育成し、どんな成果が出ているのか」を外部に説明する時代になりました。
つまり、人的資本経営は「やるかやらないか」の話ではなく、日本企業全体が向き合うべき大きな流れになっているということです。
とはいえ、このような声もよく聞きます。
「それは大企業の話でしょう?」
「うちのような中小企業には関係ないのでは?」
私も最初はそう感じていました。
でも実際に取り組んでみて分かったのは、むしろ中小企業こそ人的資本経営の効果を実感しやすい、ということです。
組織がコンパクトだからこそ、トップの意思が現場に届きやすく、変化のスピードも速い。
だからこそ、地方の中小製造業である私たちの実践事例をお伝えすることに意味があると考えています。
人的資本経営は、難しい理論ではなく、「人をどう本気で活かすか」というシンプルな問いから始まります。
その一歩を踏み出せるかどうかが、これからの分かれ道になるのかもしれません。
講演でお伝えした3つのテーマ

① 御津電子における具体的な取り組み
今回の講演では、まず「実際に何をやっているのか?」という部分を具体的にお話ししました。
といっても、何か特別な制度や、最先端の仕組みを導入しているわけではありません。
私たちがやっているのは、いわば“当たり前のことを、本気で、継続している”ということです。
具体的には、こんな取り組みです。
・定期的な傾聴面談(1on1)の実施
・資格取得費用の全額会社負担(成形技能士など専門資格の取得支援)
・DXによる業務効率化の推進(生産管理の見える化やデータ活用)
・若手社員への裁量権付与(小さくても意思決定を任せる)
・現場リーダーの計画的な育成
どれも、派手さはありません。
ですが、続けることで確実に組織の空気は変わっていきます。
たとえば1on1も、ただ形式的に時間を取るのではなく、「最近どう?」「何か困っていることある?」と本気で向き合うことを大切にしています。
話を聞いて終わりではなく、できることは必ず行動に移す。
ここを徹底することで、少しずつ信頼関係が積み上がっていきます。
これらすべての根底にあるのは、「人を大切にする」と経営者が本気で言い切る覚悟です。
現場で悩んでいる社員の声を見過ごさない。小さな違和感や不安を“気のせい”で終わらせない。
その積み重ねが、やがて会社の文化になります。
私はよく、「制度よりも先に姿勢」とお伝えしています。
どんな立派な制度も、トップの本気度がなければ形骸化してしまうからです。
だからこそ、人的資本経営のスタートは“仕組みづくり”ではなく、“向き合い方を変えること”。
そこが、私たちの原点です。
② 人的資本経営がもたらす成果
人的資本経営というと、「きれいごと」「理想論」と思われることもあります。
ですが、実際に取り組んでみると分かるのは、成果はとても“現実的”だということです。
私たちの現場で起きた変化は、例えばこんなものです。
・採用力の向上(応募数の増加、ミスマッチの減少)
・離職率の低下(定着率の安定)
・現場改善スピードの向上(自発的な改善提案の増加)
・DX推進の加速(現場からの前向きな協力)
・利益率の改善(生産性向上による粗利アップ)
どれも経営に直結するテーマばかりです。
特に感じているのは、「人が活きる環境」が整うと、会社の空気そのものが変わるということです。
言われたことだけをやる組織から、自分たちで考え、動く組織へと変わっていきます。
製造業ではつい、「まずは設備投資」と考えがちです。
もちろん設備は重要です。
しかし、どれだけ高性能な機械を入れても、それを使いこなし、改善し続けるのは“人”です。
現場が前向きであれば、同じ設備でも生産性は大きく変わります。
逆に、モチベーションが低い状態では、最新設備も十分に活かされません。
私自身の実感としても、製造業では設備投資以上に人材投資のROI(投資対効果)が高いケースが少なくありません。
研修や資格取得支援、対話の時間づくりなどは、大きな資金がなくても始められます。
そしてその効果は、じわじわと、しかし確実に積み上がっていきます。
人に投資することは、短期的なコストではなく、長期的な資産づくりです。
結局のところ、
「人が伸びる会社は、業績も伸びる。」
これが、現場で実感しているシンプルな事実です。
③ 明日から始められる具体的アクション
「人的資本経営が大事なのは分かった。でも、何から手をつければいいのか分からない。」
講演後も、この質問をたくさんいただきました。
実は、ここで止まってしまう経営者の方はとても多いと感じています。
だからこそ、私の答えはできるだけシンプルです。
まずは1on1を始めること。
難しい仕組みや評価制度の見直しから入る必要はありません。
いきなり全社改革をしようとしなくても大丈夫です。
例えば、こんな問いからで十分です。
・最近どう?
・困っていることはある?
・今の仕事でやりにくいところは?
・将来どんな姿を目指している?
ポイントは、「聞いたふり」をしないこと。
本気で聞き、最後まで遮らずに耳を傾けることです。
そして、必ずメモを取る。
さらに、できることは必ず一つでも行動に移す。
たとえば、
「この作業がやりづらい」と言われたらレイアウトを見直す。
「資格を取りたい」と言われたら支援制度を検討する。
小さな変化で構いません。
“話しても無駄じゃなかった”という体験を積み重ねることが、信頼を生みます。
特別な制度も、大きな予算も必要ありません。
必要なのは、経営者が時間をつくる覚悟だけです。
人的資本経営のスタートラインは、豪華な資料でも、立派なスローガンでもありません。
対話です。
会社を動かしているのは人。
だからこそ、まずは人と向き合うことから始める。
それが、いちばん確実で、いちばん効果の高い第一歩だと私は思っています。
会場で寄せられた本質的な質問

講演後の質疑応答では、さすが経営の第一線で活躍されている皆さまだけあって、とても本質的で鋭い質問をたくさんいただきました。
その中でも特に多かったのが、採用に関する質問です。
Q1. なぜ採用がうまくいっているのですか?
私の答えはシンプルです。
「言語化しているから」です。
具体的には、次の3つを徹底しています。
・会社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を明確にする
・なぜこの会社で働くのかを具体的に発信する
・社員のリアルな声をそのまま届ける
今の求職者は、「条件」だけでは動きません。
給与や休日はもちろん大事ですが、それ以上に「どんな人たちと、どんな想いで働くのか」を見ています。
御津電子では、会社が用意したきれいな文章ではなく、社員自身の言葉をそのまま発信しています。
例えば――
「大学を中退して夢がなかった。でもDXで会社を変えたい」
「成形技能士として技術を極めたい」
少し不器用で、飾らない言葉です。
でも、だからこそリアルで、共感を生みます。
実際に面接でも、「ホームページで社員さんの言葉を見て応募しました」と言ってくださる方が増えました。
これは大きな変化です。
企業ブランディングというと、格好良いスローガンやデザインを思い浮かべがちですが、私は少し違うと感じています。
本当のブランディングとは、
“会社の覚悟を、ちゃんと自分たちの言葉で伝えること”。
何を目指しているのか。
なぜこの仕事をしているのか。
どんな仲間と未来をつくりたいのか。
それを逃げずに言語化することが、結果的に採用力の向上につながっているのだと思います。
Q2. 60歳定年をどう考えるか?
これも非常に多かった質問です。
私の考えでは、
これからは「年齢」ではなく「意欲」で考える時代だと思っています。
特に製造業においては、熟練技術そのものが大きな価値です。
長年の経験からくる“勘”や“感覚”、トラブル対応力は、一朝一夕では身につきません。
にもかかわらず、「60歳だから一区切り」という考え方だけで線を引いてしまうのは、企業にとっても大きな損失になりかねません。
もちろん体力面への配慮や役割の見直しは必要です。
ですが大切なのは、「再雇用」という形式的な枠組みで受け入れるのではなく、戦力としてどう活躍してもらうかという視点です。
例えば、
・若手育成の専任ポジションをつくる
・技能伝承の仕組みを明文化する
・現場改善のアドバイザー的役割を担ってもらう
といった形で、経験を“資産”として活かすことができます。
経験と知恵を次世代へどうつなぐか。
これもまさに、人的資本経営の重要なテーマのひとつです。
Q3. 社長の具体的な業務は?
「人的資本経営を進める中で、社長は何をしているのですか?」
という質問もいただきました。
私の主な業務は、例えば次のようなものです。
・人材戦略の設計(採用・育成・評価の方向性づくり)
・DX推進の旗振り役
・理念浸透活動(社内外への発信)
・対外広報やブランディング
・金融機関や取引先との連携
もちろん日々の経営判断もありますが、意識しているのは「仕組み」よりも「空気」をつくることです。
人的資本経営において、社長の最大の役割は
“文化をつくること”だと私は考えています。
トップが本気で人を大切にしているかどうか。
挑戦を歓迎しているかどうか。
失敗を責めるのか、学びに変えるのか。
その姿勢が、組織の空気を決めます。
文化は自然に生まれるものではありません。
意図して育て、言葉にし、繰り返し伝え続けるものです。
だからこそ、人的資本経営は人事部だけの仕事ではなく、
社長自身の仕事なのだと思っています。
私が考える人的資本経営の本質

私は、人的資本経営を次のように定義しています。
人的資本経営とは、支えてくれている人の「心の声」に耳を傾け続ける経営である。
最近は「人的資本の情報開示」や「KPI設定」といった言葉もよく聞くようになりました。もちろん、それらは大切です。ですが私は、その前にもっと大事なものがあると感じています。
それは、経営者自身の“覚悟”と“姿勢”です。
・現場の小さな違和感を拾えているか
・社員の挑戦を本気で応援できているか
・耳の痛い意見にも向き合えているか
どれだけ立派な資料や制度を整えても、トップの姿勢が伴わなければ形だけで終わってしまいます。
結局のところ、経営とは
「人とどう向き合うか」に尽きるのだと思っています。
中小製造業の経営者の皆さまへ
人手不足。
原材料の高騰。
価格転嫁の難しさ。
中小製造業を取り巻く環境は、決して楽ではありません。
日々の資金繰りや受注状況に頭を悩ませながら、「人への投資まで手が回らない」という声も多く聞きます。
しかし、だからこそ私はあえて言いたいのです。
「人」に投資する会社が、最後に選ばれる会社になる。
採用がうまくいかないのは、待遇だけの問題ではありません。
若手が定着しないのも、世代のせいだけではありません。
人材戦略と経営戦略がバラバラのままでは、持続的な成長は難しい時代です。
逆に言えば、「人を活かす仕組み」を本気でつくった企業には、大きな可能性があります。
・挑戦を歓迎する文化
・学び続けられる環境
・世代を超えて技術がつながる仕組み
これらは特別な大企業だけができることではありません。
むしろ、距離が近い中小企業だからこそ、スピード感をもって実行できるのです。
大企業も中小企業も、経営の本質は同じです。
「人をどう活かすか」。
この問いに真剣に向き合い続ける企業が、これからの時代を切り拓いていく。私はそう確信しています。
御津電子はこれからも、
人的資本経営の実践、DXの推進、そして一人ひとりが躍動する多角化経営を進めてまいります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
人的資本経営に関するご相談や、経営者向けの講演・勉強会のご依頼などがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
現場視点でのリアルな取り組みを、惜しみなくお伝えいたします。