中小製造業のVE・コストダウン戦略と就労支援B型事業所活用のススメ


こんにちは、御津電子株式会社代表の人見です。
今回は製造業におけるコストダウン(Cost Down:CD)やバリューエンジニアリング(Value Engineering:VE)の重要性、そしてそれらの手段として就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)を活用するメリットについてお伝えしたいと思います。
私自身、中小企業の経営者として日々利益確保の難しさを痛感しています。
同じ悩みを抱える経営者の方々に、当社グループでの経験を踏まえた解決策を、初心者にも分かりやすくお届けできればと思います。

なぜVEとコストダウンが重要なのか

なぜ?

現代の製造業を取り巻く環境は非常に厳しく、原材料費やエネルギーコスト、労務費の高騰が続いています。海外との価格競争も激化し、製品にかかるコスト競争力が企業の命運を分ける時代です。このような状況下で、いかに無駄を省きコストを削減していくかが企業存続と利益最大化の鍵となっています。

一方で、コスト削減=品質低下ではありません
ここで重要になるのがVE(バリューエンジニアリング)の考え方です。
VEとは単なる「コストカット」ではなく、製品やサービスが果たすべき機能とそれにかけるコストのバランスを科学的に見直し、必要な機能は維持・向上しつつ無駄なコストを削減する体系的な手法です。例えば「この機能は本当に必要か?他の方法で安く実現できないか?」といった問いを重ね、価値=機能÷コストを最大化することが目的です。VEを導入すれば、一時的なコストダウンに留まらず企業のものづくり体質を改善し、継続的な成長を支えることも可能になります(つまり短期的利益と長期的競争力の両立が図れるのです)。
こうしたVEの取り組みは、結果として製品の競争力強化や利益率の向上に直結します。

要するに、利益を最大化するためには、「過剰なコストを見直して価値を高める」ことが必要不可欠です。そのためのアプローチがVEであり、現場改善や設計段階からのコストダウン活動なのです。特に中小企業では、大企業のように潤沢な利益率を持たないことも多いでしょう。少しのムダを省くだけでも利益に大きなインパクトがありますから、VE的視点で日頃から原価低減を意識することが重要です。

原価低減の手段としてのB型事業所の活用

では、具体的にどんな方法で原価を下げるかを考えたとき、自社内の効率化や安価な資材調達だけでは限界があります。そこで注目したいのが、障がい者支援施設である「就労継続支援B型事業所」の活用です。B型事業所とは、障がいや体調の理由で一般企業での就労が難しい方に働く機会と訓練の場を提供する福祉サービス施設です。利用者は雇用契約を結ばず、施設で軽作業や内職的な仕事を行い、その成果に応じた「工賃」という報酬を受け取ります。ポイントは、この工賃が労働の対価ではなく訓練の成果に対する謝礼という位置づけのため最低賃金の適用外であり、金額も一般的な給与より低水準になっていることです。つまり企業側から見ると、業務を外部委託する際の単価を大幅に抑えられる可能性があります。

具体的な例を挙げましょう。
一般企業でスタッフを雇って行っている定型的な軽作業(例:製品の検品・仕分け、シール貼り、データ入力など)をB型事業所にアウトソーシングした場合のコストを試算したデータがあります。それによると、社内で正社員やパートを使っていた場合に比べ、B型事業所に委託することで月あたり約72%ものコスト削減が実現できたというモデルケースがあります。社内人件費や残業代、教育研修コスト、作業スペース費用など諸々含めて月73万円かかっていたものが、B型事業所への委託では約20万円で済んだという試算です。もちろん業務内容や契約条件によって差はありますが、「大幅なコストダウンと一定の品質確保を両立できる」可能性が示されています。

さらに、この方法には企業イメージ向上やCSR(企業の社会的責任)推進という副次的なメリットもあります。障がい者支援施設に仕事を発注することは、単なる外注ではなく社会貢献活動として評価される側面があります。実際、「福祉事業所での訓練を兼ねた業務なので、他社や個人に外注するより大幅なコストダウンができる上に、社会貢献にもつながる」という趣旨の案内をしている支援事業所もあります。
つまりコスト削減と社会貢献の両立が図れる点で、B型事業所への業務委託は中小企業にとって魅力的な選択肢なのです。

御津電子の具体的な取り組みと連携事例

LUMO岡山東山店
御津電子グループ 就労継続支援B型事業所Lumo岡山東区店

私たち御津電子グループでも、まさにこのB型事業所の活用に取り組んでいます。当社は2025年に岡山市東区に就労継続支援B型事業所「Lumo(ルモ)岡山東区店」を新規開設しました。これは当社グループ内の福祉事業会社で、障がいのある方々にPC入力やものづくり作業、ゲーム配信など多様な業務を提供する施設です。ものづくり企業である当社のノウハウを活かし、「障がい者と社会をつなぐ」ことを使命として設立した施設で、地域の社会課題(障がい者の就労機会不足)に貢献したいという思いが出発点にあります。

Lumoでは、当社の事業と親和性の高い業務の一部を切り出して委託しています。
たとえば製品製造プロセスの一部(簡単な組立・検査作業など)や、PCでのデータ整理作業、さらには新規事業プロジェクトの補助作業などです。
一見すると高度なものに感じられるかもしれませんが、工程を工夫し手順をマニュアル化することで、障がいのある方でも取り組めるような作業に分解しています。実際、Lumoで提供している「ものづくりの仕事」は、プラスチック部品のカットや検査といったシンプルな作業です。特別な知識や経験がなくても一人ひとりのペースで取り組める内容に設計されていますので、初めての方でも慣れれば戦力になっていただけます。

こうして切り出した業務をLumoに委託することにより、当社としては人件費や社内工数の削減につながっています。
社内のベテラン社員が行っていた単純作業をLumoへ発注することで、その社員はより付加価値の高いコア業務に専念できるようになりました。
結果として生産効率が上がり、当社の利益改善にも寄与しています。
また、Lumo側にとっても継続的な受注は利用者の工賃アップやスキル向上につながり、施設の安定運営にも役立っています。

さらに見逃せないのは、こうした取り組みがCSR(企業の社会的責任)やSDGsの達成にも波及効果を生んでいることです。
障がい者の就労機会を創出し地域社会に貢献することで、当社は地域の信頼や評価を得やすくなりました。
「ものづくりを通じて社会を幸せにする」という当社理念を具体的に体現する活動として、社員の誇りにもつながっています。
昨今は取引先からもSDGsや社会貢献の取り組み状況を問われることが増えていますが、当社のLumoとの連携事例を紹介すると非常に関心を持ってもらえます。コストダウンと社会貢献の両面で価値を生み出すこの取り組みは、自社のブランディング強化にも一役買っていると実感しています。

B型事業所利用時の注意点

チェックリスト

B型事業所の活用は魅力的なメリットが多い一方、スムーズに効果を出すためにいくつか注意しておくべきポイントもあります。
私の経験から、以下の点を念頭に置いていただきたいと思います。

  1. 発注する業務の選定と技術的フォロー
    製造業の仕事には専門知識や品質管理が欠かせません。全てのB型事業所が高度な製造ノウハウを持っているわけではないため、委託する業務はできるだけ簡素化し標準化することが重要です。必要に応じて、最初は自社の技術者が作業手順の研修や品質チェック体制の構築をサポートすると良いでしょう。幸い当社の場合、Lumoはグループ企業ということもあり製造の専門スタッフと密に連携できますが、外部の事業所に依頼する場合も、技術的な問い合わせ窓口を決めておくなどフォロー体制を取ると安心です。
  2. 施設の理念・目的を理解しパートナー意識を持つ
    B型事業所は「安価な下請け工場」ではなく、障がい者の方の働く喜びや自立を支援する場です。その理念を企業側も尊重して協力する姿勢が大切です。具体的には、納期やノルマについて無理な要求をしない作業の難易度や分量に配慮するといった点です。福祉施設では利用者さんの体調やペースを尊重するため、天候や体調不良で急に人手が足りなくなることもあります。企業側としては余裕を持ったスケジュール管理を行い、必要なら事前に「この部分だけは難しければ減らして構いません」といった柔軟な取り決めも検討しましょう。相手を対等なパートナーと考え、共に良いものを作り上げる意識で臨むと、施設側も我々企業の期待にしっかり応えようと努めてくれるものです。
  3.  現場視察とコミュニケーションの徹底
    実際に依頼を始める前に、必ず施設の現場を見学することをおすすめします。作業環境の設備、利用者さんやスタッフの様子、品質管理の方法などを自分の目で確かめることで、安心して任せられるか判断できます。また定期的なミーティングや現場訪問を通じて、双方向のコミュニケーションを図ることも重要です。企業側の意図や製品へのこだわりを伝える一方で、施設側から改善提案や現場の声を聞くことで、お互い理解が深まります。当社でも月に一度、Lumoのスタッフと業務進捗や課題点を確認し合う場を設けていますが、些細なすれ違いを早期に解消できて効果的です。
  4.  法的な位置づけの確認
    最後に留意したいのが、法律上の線引きです。B型事業所への業務委託は「請負契約」であり、企業はあくまで施設に仕事を依頼する立場です。絶対に避けなければならないのは、企業の担当者が利用者さん個人を直接自社の従業員のように指示・命令してしまうことです。これは場合によっては実質的な雇用とみなされ、法的トラブルの原因になります。現場では、施設側の職員が間に入って指導・サポートする体制を守り、企業側は成果物の納品を受け取るクライアントという立場を明確にしましょう。この点に注意すれば、法律的にも安心して委託関係を築けます。

Lumoのメリット(製造の専門性、ミッション、工賃の高さなど)

LUMO岡山東山店
御津電子グループ 就労継続支援B型事業所Lumo岡山東区店

ここで、当社グループのB型事業所「LUMO岡山東区店」が持つ特長について少し紹介させてください。
B型事業所にも様々な施設がありますが、特に製造業の中小企業がパートナーとして選ぶ際にメリットの大きい点だと感じている部分です。

製造業ならではの専門性と安定取引
Lumoは創業55年の歴史を持つ御津電子グループの一員であり、親会社である当社はオムロンやパナソニック、三菱電機といった大手企業とも取引実績があるエレクトロニクス製造企業です。そのため、Lumo自体もものづくり現場の基礎知識や品質意識を持ったスタッフが運営しています。例えば作業手順書の作成や検品体制の整備など、製造業の常識を踏まえた上で業務に取り組んでくれるため、委託する側として安心感があります。実際、当社から依頼する検査・組立作業でも、不良ゼロを目指して施設内で何重にもチェックをしており、納品物の品質は安定しています。「福祉施設だから品質面は不安…」という先入観を持つ方もいるかもしれませんが、製造業系のB型事業所であればその点の心配は比較的少ないでしょう。

ミッションに基づく意欲と将来展望
Lumoの掲げるミッションは「障がい者の可能性を引き出し社会と繋ぎ新たな価値を創造する」ことです。単に作業を提供して終わりではなく、将来的に一般就労へ羽ばたく人材を育てる場という位置づけがあります。そのため、利用者の方々も「いずれは御津電子や関連会社で働きたい」という目標を持って取り組んでいたり、スタッフ側も個々の成長に寄り添った支援をしています。こうした意欲ある環境で行われる仕事は、成果物のクオリティにも良い影響を与えますし、何より我々企業側にも学ぶ点が多いです。実際にLumoで経験を積んだ方を当社が社員として採用する道も開けており、グループ全体で人材育成と戦力確保につなげることができています。

平均を上回る工賃水準と安定した人材確保
B型事業所で仕事を依頼する際に気になるのは「きちんと人手を確保して継続してもらえるか」ではないでしょうか。Lumoでは利用者の平均工賃(月収)をできるだけ一般就労に近づけることを目標に掲げており、月額5万円を目指しています。実は全国的に見るとB型事業所の平均工賃はまだ2万円台ほど(令和5年度全国平均は23,053円/月)で、多くの施設では経済的に十分とは言えないのが現状です。しかしLumoでは当社からの安定した受注や効率的な生産活動により、利用者さんに支払う工賃水準を高く維持しています。工賃が高い施設ほど利用者のモチベーションも上がり、人材が定着しやすく優秀な方々が集まる傾向があります。その結果、企業にとっては安定したアウトソーシング先となり、納期遵守や品質維持の面でも信頼を築けるのです。このように「適正な報酬で質の高い仕事をしてもらう」という好循環が生まれている点も、Lumoと連携する大きなメリットだと感じています。

まとめ

長文となりましたが、最後に本記事のポイントをまとめます。
製造業の中小企業にとって、VEによる価値向上と徹底したコストダウンは、厳しい市場で生き残り利益を伸ばすための両輪です。そしてその実践策の一つとして、就労継続支援B型事業所の活用は非常に有効な選択肢となり得ます。B型事業所に定型業務をアウトソーシングすることで、人件費等の大幅な削減とCSR・社会貢献の実現を同時に叶えることができます。実際に御津電子では、自社グループ内にLumoを開設し、業務委託を通じてコスト圧縮と地域貢献を両立してきました。

もちろん、効果を出すには適切な業務の切り出しや施設との丁寧なコミュニケーション、法律面の配慮といった注意点もあります。しかし、それらは少し視点を変えて取り組めば解決できるものです。大切なのは、相互にパートナーとして信頼関係を築き、一緒に良いものづくりをしていこうという姿勢でしょう。

日本全体で見ても、今後ますます労働力不足や人件費上昇の波は避けられません。
一方で、障がい者の方々の社会参加を促し、誰もが活躍できる場を作っていくことも社会の重要なテーマです。B型事業所との協働は、まさに「経営改善」と「社会的使命」の双方に応えるソリューションだと思います。ぜひ、中小企業の経営者の皆さまも、自社のVE・コストダウン戦略の一環として、地元のB型事業所との連携を検討してみてはいかがでしょうか。きっと新たな気づきと価値が生まれるはずです。

自社の利益も社会の笑顔も両方増やしていける——そんなwin-winのものづくりを、これからも私たち御津電子は追求していきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
お問い合わせや見学希望などありましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。
共に新しい価値創造に挑戦していきましょう!