人の可能性は無限大!Factory Innovation Week 2025で人的資本経営の事例を語ってきました


登壇のきっかけ

先日、インテックス大阪で開催された大規模展示会「ファクトリーイノベーションウィーク2025」にて、御津電子株式会社の代表として人的資本経営について講演をさせていただきました。

実は当社はこの展示会に出展していたわけではないのですが、主催者の方がインターネット上で当社の取り組みを知って声をかけてくださったのが登壇のきっかけです。以前に別の場で行った人的資本経営に関する講演の満足度が非常に高かったこともあり、お声掛けいただいたようです。

講演当日は約300名収容の会場に対し200名近くの方々にご来場いただき、会場は熱気に包まれました。中小企業庁(経済産業省 中小企業庁)のご担当者の方と一緒に登壇し、約1時間にわたって人的資本経営の事例や考え方についてお話しましたが、皆さんとても真剣に耳を傾けてくださり、大盛況のうちに終えることができました。

講演後には多くの方と名刺交換をさせていただき、中には「ぜひ東京でもこの話をしてほしい」というありがたいご依頼もいただきました。今回は、その講演でお話しした内容をブログの形で改めて共有したいと思います。

人的資本経営の始まり

当社が人的資本経営に本格的に取り組み始めたのは、工場経営が厳しい状況に直面したことが契機でした。以前は、工場長をはじめとする管理監督者が中心となって新規受注の獲得や5S活動・現場改善に取り組んでいましたが、思うような成果が出ませんでした。

私(人見雄一)はリクルート出身という経歴もあり、多くの人の潜在能力を引き出すことの大切さを身をもって知っていました。そこで発想を転換し、「従業員一人ひとりの可能性は無限大である」と信じ、まずは今まで頑張ってくれている従業員の声に耳を傾けようと決意したのです。この「あなたはできる!」という前提に立ち、従業員の強みや「やりたいこと」を引き出すことに注力するーーそれが御津電子の人的資本経営の出発点でした。

具体的には、経営陣が現場の声を積極的に聴く仕組みを作り、従業員との対話の機会を増やしました。私は社内で「KSKサイクル(傾聴・支援・改善)」と呼んでいるプロセスを繰り返し実践し、現場の意見やアイデアを経営に生かす風土づくりに取り組みました。それまでトップダウンで進めていた改善活動を、一転してボトムアップで支える体制に改めたのです。

人的資本経営の結果

従業員の可能性を信じて耳を傾ける経営へと舵を切った結果、少しずつ社内に変化が生まれました。

最初は従業員から不平不満の声が上がることもありましたが、経営側が真摯に受け止めて対話を重ねるうちに、次第に課題解決につながる建設的な提案が現場から出てくるようになりました。

「もっと作業効率を上げるために設備を改善できないか」「新人教育の仕組みを整えてほしい」といった具合に、現場の社員自らが工夫やアイデアを出し始めたのです。

私たち経営陣はそれらの提案を一つひとつ実行に移していきました。

例えば勤怠管理にITツールを導入して業務の手間を減らしたり、現場リーダーに権限移譲して責任と裁量を持ってもらったりと、従業員が働きやすく成長しやすい環境作りを進めました。

その結果、社員のモチベーションは大きく向上し、工場全体の売上も上向き、人材応募も飛躍的に増加するなど、目に見える成果が次々と現れたのです。まさに停滞していた工場経営は劇的なV字回復を遂げ、わずか1年で苦境を脱することができました

さらに特筆すべきは、経営陣が会社の方針やビジョンを丁寧に示すことで、現場から上がってきた提案がより経営課題の解決につながる形にブラッシュアップされていったことです。現場発のアイデアと経営戦略とが噛み合わさり、相乗効果で業績が向上する好循環が生まれました。

こうして当社の工場は、今では高い収益力を誇るまでに改善することができたのです。すべての始まりは、経営者である私自身が従業員の可能性を信じ、その声に耳を傾けたことでした。

人的資本経営の本質

この取り組みを通じて私たちが辿り着いた結論は、人的資本経営の本質は非常にシンプルだということです。つまり「人の可能性を信じ、その人の心の声に耳を傾ける」——たったこれだけなのです。

従業員を単なるコストではなく企業の成長を担う「資本(財産)」として捉え、その成長意欲やアイデアを最大限に引き出す。その根本にあるのは「人」を信頼し大切にする姿勢に他なりません。

もちろん、それを実現するための制度設計や仕組みづくり(例えば先述のKSKサイクルのような取り組み)は必要ですが、どんな立派な枠組みも従業員への信頼という土台がなければ機能しないと感じています。

実際、私が講演でお伝えした「従業員の可能性を信じ、やりたいことに耳を傾ける」というシンプルなメッセージに対して、多くの方から「熱意を感じた」「シンプルで分かりやすかった」と共感の声をいただきました。奇をてらった施策ではなく、当たり前の原点に立ち返ること——それが人的資本経営の核なのです。

人的資本経営の先にあるもの

人的資本経営を突き詰めていった先に何があるのか。 それはずばりビジョンの実現です。

当社御津電子は「ものづくりを基盤とした多角化経営」という企業ビジョンを掲げていますが、その実現を支えているのが人的資本経営の取り組みです。事実、人的資本経営を本格的に推進してからの約2年間で、当社では福祉事業など新たな事業部門を立ち上げ、しかもそれらを早期に黒字化することに成功しました。

これは繰り返しになりますが、「人の可能性は無限大」という信念のもとで社員一人ひとりの強みを最大限に引き出してきた成果にほかなりません。

この福祉新規事業が生まれた背景には、現場で働く社員たちとの日々の対話があります。

例えば、工場長のAさんは、ご自身のお子さんが障がいを持っていることもあり、人的資本経営の取り組みを通じて「障がい者と社会をつなぐ仕事がしたい」という強い想いを自身の中に育みました。経営陣はその声に心から耳を傾け、Aさんの想いを尊重して社内で新規事業として検討を開始。

そして実際に障がい者の就労支援施設を立ち上げるプロジェクトが動き出しました。従業員の「なりたい姿」を聴き続けることで新たな事業が誕生した、象徴的なエピソードだと思います。

このように、人的資本経営によって社員個人の成長が会社の成長につながり、さらに社会の役に立つ新たな価値創造へと波及しました。

社員発のビジョンが会社の新規事業になる──経営者としてこれほど嬉しいことはありませんし、社員にとっても自分の夢が会社を動かした大変誇らしい出来事だったことでしょう。

人的資本経営は本業の収益拡大だけでなく、会社のビジョン実現と社会貢献を同時に達成し得る可能性を秘めているのです。

人的資本経営のはじめ方

ここまで読んで、「自社でも人的資本経営に取り組んでみたいが、何から始めればいいのだろう?」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。

私がお伝えしたいのは、難しいことから始める必要は全くないということです。

第一歩は、ご自身にとって「大切な人」の心の声に耳を傾けることから始めてみてはいかがでしょうか。

では「大切な人」とは誰でしょうか。人によって様々だと思いますが、多くの場合それは家族ではないでしょうか。

社員は皆、家族に支えられて働いています。だとすれば、まず経営者や管理職である皆さん自身が、身近な家族との時間を大切にし、その声に耳を傾けることが出発点になります。実際、当社でも人的資本経営の取り組みを進める中で、社員に仕事第一ではなく家族第一の考え方を浸透させてきました。仕事ばかりで有給休暇を取れなかった管理職が積極的に休みを取り、子供の学校行事や病院付き添いに参加するようになった結果、かえって仕事にも一層集中できるようになるというポジティブな変化が生まれています。

例えばあなたも、こんな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。

  • 今日は思い切っていつもより早めに仕事を切り上げてみる

  • 有給休暇を取って家族とゆっくり過ごす日を作る

  • 家族、特にお子さんの話にじっくりと耳を傾けてみる

こうした行動を通じて身近な人との関係が豊かになれば、不思議なもので自分自身の視野も広がり、新たな発想やエネルギーが湧いてくるものです。

人的資本経営のすべての始まりは、まずあなた自身が身近な人の可能性を信じ、その声に耳を傾けることなのだと、私自身強く感じています。

まとめ

今回、Factory Innovation Week 2025でお話しした内容を振り返りながら、御津電子での人的資本経営の事例と考え方をご紹介しました。

講演当日は幸い非常に高い満足評価をいただき(「非常に満足」の回答率は全体平均の約1.6倍にも達しました!)多くの方に共感していただけました。

このブログを読んでくださっている皆さんの中にも、「自社でも挑戦してみたい」と感じられた方がいれば嬉しく思います。

実は、人的資本経営に注目し実践を始めている企業は当社以外にも数多く存在します。

例えば岡山県の醸造機械メーカーであるフジワラテクノアートさんでは、以前から性別や年齢にとらわれない多様性を活かした強い組織づくりに取り組み、従業員の働きやすさと働きがいの両立を推進してきました。同社は2024年に経済産業省主導の「人的資本経営コンソーシアム」に入会し、人的資本経営のさらなる深化と情報発信に努めています。

また、大手ポンプメーカーの荏原製作所さんは人的資本経営に積極的に取り組む国内企業の一社として、2025年には「JPX日経インデックス人的資本100」という新たな株価指数の構成銘柄にも選定されています。

このように、日本でも「人」を起点とした経営改革が確実に広がりつつあるのです。

私自身、人的資本経営こそが日本企業の底力を引き出し、日本全体をより強くすると信じています。

経営者が従業員の可能性を信じ、その声に耳を傾けることからすべてが始まる──このシンプルな原点回帰のアプローチが、一過性のブームで終わることなく日本中に定着していけば、きっと私たちの子供たちが生きる未来の社会は今よりもっと素晴らしいものになるでしょう。

人的資本経営という考え方がより多くの企業に広まり、皆さんの会社でも「人」の可能性が最大限に花開くことを、心から願っています。

出典

  • 事例でわかる人的資本経営|中小製造業が“人”への投資で成果を出す方法(御津電子株式会社), https://mitsudenshi.co.jp/11640/

  • 中小企業、製造業における人的資本経営。Factory Innovation Week 2025(インテックス大阪)講演レポート(御津電子株式会社), https://mitsudenshi.co.jp/11592/

  • 中小製造企業における人的資本経営の真髄がここにあり!Factory Innovation Week 2025で、人見が登壇(御津電子株式会社), https://mitsudenshi.co.jp/11490/

  • 人的資本経営について(御津電子株式会社), https://mitsudenshi.co.jp/company/human_capital_management/

  • JPX日経インデックス人的資本100に選定(荏原製作所), https://www.ebara.com/jp-ja/newsroom/2025/20250808-02/

  • フジワラテクノアートが「人的資本経営コンソーシアム」に入会(PR TIMES), https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000103779.html