高市早苗新政権が製造業に与える影響とその対策について


2025年10月、高市早苗氏が日本初の女性総理大臣に就任し、新政権が発足しました。
公明党が連立政権から離脱し、代わりに日本維新の会との連立(閣外協力)が組まれるなど、政局にも大きな変化が起きています【日米戦略投資からの産業活性化—高市政権が直面する外交課題(デロイト トーマツ グループ), https://faportal.deloitte.jp/institute/report/articles/001618.html】。
高市新政権は「経済安全保障」と「積極財政」を掲げ、AI(人工知能)や半導体といった先端産業を政策の中心に据えようとしており【高市内閣発足、日本の半導体政策はどこへ向かうのか(Semicon.TODAY)
, https://semicon.today/archives/3006】、その動向に産業界の注目が集まっています。
今回は、高市早苗新政権の政策が製造業にどのような影響を与えるかを分かりやすく解説するとともに、製造業の経営者が取るべき対策について考えてみたいと思います。

新政権誕生(イメージ)

 

経済安全保障の強化と半導体・AIへの投資拡大


高市首相は所信表明演説で、「危機管理投資」というコンセプトのもと、国家の重要分野に官民で積極投資を行う方針を示しました【第219回国会 高市内閣総理大臣所信表明演説(首相官邸), https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1024shoshinhyomei.html】。
具体的には、AI・半導体・量子・バイオ・造船・宇宙・サイバーセキュリティなどの戦略分野に対し、多角的な政策※で産業を後押しする考えです。
(※人材育成や研究開発支援、スタートアップ振興、税制優遇など)
最先端技術への投資拡大と官民連携によって、日本の供給力(ものづくり競争力)を強化し、経済成長につなげる狙いがあります。

特に半導体産業の振興は製造業にとって大きな追い風となるでしょう。
近年の世界的な半導体不足や地政学リスクを受け、日本でも海外メーカーの工場誘致や国内企業の新工場建設に政府補助金が投入されています。
高市政権でも経済安全保障の観点からこの流れを加速させ、国内生産能力の強化に努めるとみられます。
事実、日米両政府は半導体やAI分野での協力投資を含む戦略的イニシアチブに合意しており【日米戦略投資からの産業活性化—高市政権が直面する外交課題(デロイト トーマツ グループ), https://faportal.deloitte.jp/institute/report/articles/001618.html】、今後アメリカとの連携のもとで日本の製造業が活躍する機会が増えるでしょう。
「日本の製造業は品質が高くコストも相対的に安い」と海外から評価されており、同盟国である米国とのパートナーシップ強化は、新政権下で日本企業にとって大きなビジネスチャンスとなりそうです。

エネルギー政策の転換と安定供給への期待

メガソーラー(イメージ)

高市新政権のもう一つの注目ポイントがエネルギー政策です。
高市首相は再生可能エネルギーへの偏重を見直す姿勢を示しており、各地で乱開発が進む大規模メガソーラーによる環境破壊に強い懸念を表明しています。
実際に、高市氏は中国製パネルを大量に使用したメガソーラー開発が貴重な自然を破壊しているとして補助金制度の「大掃除」が必要だと訴えています【太陽光依存にNO!高市とコバホークはエネルギー政策を変えるか?(キヤノングローバル戦略研究所), https://cigs.canon/article/20251009_9288.html】。
今後は無秩序な太陽光発電開発に対する法規制が強化される可能性があり、巨大メガソーラー中心の流れは一旦ブレーキがかかるかもしれません。

しかしこれは、製造業にとっては安定した電力供給への期待につながります。
太陽光発電は天候に左右される不安定さや、発電コストの高さ、安全保障上の課題(パネルの海外依存)など問題点も指摘されています【太陽光依存にNO!高市とコバホークはエネルギー政策を変えるか?(キヤノングローバル戦略研究所), https://cigs.canon/article/20251009_9288.html】。
新政権では原子力や蓄電技術、次世代型の太陽電池(ペロブスカイトなど)も活用し、地域の理解を得ながら脱炭素と安価な電力の両立を図る方針です【第219回国会
高市内閣総理大臣所信表明演説(首相官邸), https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1024shoshinhyomei.html】。

安定した電力が確保され電力コストが適正化すれば、工場を国内で稼働する製造業には朗報と言えます。
電力不足や高騰への不安が和らげば、生産計画も立てやすくなるでしょう。
クリーンエネルギーと産業競争力の両立に向けた現実的なエネルギー政策への転換に、企業からも期待の声が上がっています。

防衛予算の拡大による製造業への追い風

製造業(イメージ)

高市政権は安全保障面でも大きな転換を打ち出しています。
その一つが防衛予算の大幅増額です。政府は当初の計画より前倒しして、防衛費をGDP比2%水準にまで引き上げる方針を示しました【第219回国会 高市内閣総理大臣所信表明演説(首相官邸), https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1024shoshinhyomei.html】。
防衛費増額に伴い、自衛隊が使用する装備品や部品を製造する国内企業(防衛産業)への発注も増える見通しです。

特に中小企業を含む製造業にとって、防衛関連需要の拡大は見逃せません。
日本には優れた加工技術を持つ町工場が多数あり、航空機や艦船、車両の部品などで高いシェアを持つ企業も存在します。

今後防衛装備の国内調達が増えれば、こうした企業にはビジネスチャンスとなります。
高市首相も「防衛力そのものを支える防衛生産基盤・技術基盤の強化」に努めると述べており【第219回臨時国会における高市内閣総理大臣所信表明演説(自由民主党), https://www.jimin.jp/news/policy/211670.html】、国内のものづくり企業が防衛分野で活躍できる環境整備が進みそうです。

一方、防衛費の財源や将来的な維持については国民的な議論も必要ですが、防衛関連予算が拡大傾向にある現状では、製造業者にとって「忙しくなる」可能性が高いでしょう。
すでに一部では関連部品の増産計画や、新規参入の動きも報じられています。
自社の技術が防衛・宇宙など安全保障分野に応用できる企業は、情報収集を行いチャンスを掴みにいくことが肝心です。

賃上げと働き方改革の行方

賃金アップ(イメージ)

高市新政権の経済政策では、賃上げ(最低賃金含む)にも注目が集まります。
物価高騰が続く中、実質賃金の低下を食い止めるためにも継続的な賃上げが必要とされています。

ただし高市首相は「賃上げを企業任せにしては経営が苦しくなるだけ。持続的に賃上げできる環境整備こそ政府の役割」と述べており【第219回臨時国会における高市内閣総理大臣所信表明演説(自由民主党), https://www.jimin.jp/news/policy/211670.html】、中小企業の負担に配慮しつつ賃上げを促す方針です。
例えば、政府調達や補助金を活用して下請け企業への価格転嫁を進めたり、設備投資減税などで生産性向上を支援したりといった施策が考えられます。
実際に政府は公正取引委員会などを通じ「労務費や原材料費の上昇分をきちんと価格に転嫁できるように」と企業間取引の適正化を呼びかけています【価格交渉促進月間(経済産業省
中小企業庁), https://tekitorisupport.go.jp/topics/gekkan/】。

また、高市政権で議論を呼んでいるのが働き方改革の見直しです。

高市首相は上野厚生労働大臣に対し、「従業員の健康維持と本人の選択を前提に、労働時間規制の緩和を検討するように」との指示を出しました【「労働時間規制緩和」説明なし 所信表明演説で高市首相(下野新聞デジタル), https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/1216760】。
これは2019年の働き方改革関連法で導入された残業時間の上限規制を一部緩める可能性を示唆するものです。
長時間労働是正に逆行しかねないとして労働組合などから強い反発の声が上がり、高市首相は所信表明演説ではこの件に直接触れませんでした【「労働時間規制緩和」説明なし
所信表明演説で高市首相(下野新聞デジタル), https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/1216760】。

今後の具体策は不透明ですが、人手不足に悩む製造業にとって一定の柔軟性が増す可能性もあります。
例えば繁忙期に希望する社員には今より多く残業してもらえるようになれば、生産対応力は上がるでしょう。
ただし同時に、過労による事故や品質低下を防ぐための健康管理も一層重要になります。

働く人の視点に立った職場環境づくりと生産効率のバランスを取ることが、経営者には求められそうです。

デジタル投資とサイバーセキュリティ強化

サイバーセキュリティ(イメージ)

高市政権は「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すと掲げており、AIやデータセンターなどデジタル分野への投資も重視しています【第219回国会 高市内閣総理大臣所信表明演説(首相官邸), https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1024shoshinhyomei.html】。
デジタル産業の振興策として、研究開発支援や規制緩和、国内データインフラの整備などが進められるでしょう。
製造業においても、IoTやAIによるスマート工場化、ビッグデータ活用による生産管理の高度化など、「デジタル×製造」の流れが加速することが予想されます。

特に見逃せないのがサイバーセキュリティ対策の強化です。
現代ではサイバー攻撃が企業活動や社会に与える影響が極めて深刻になっています。
今年も大手企業のシステムが相次いでランサムウェア(身代金要求型ウイルス)攻撃に遭い、製造・流通に支障をきたしました。

例えば、ビール大手のアサヒグループではサイバー攻撃によりビール出荷が停止し、コンビニや飲食店から商品が消える事態となりました【アサヒもアスクルも無印良品も…なぜサイバー攻撃が増えたのか(ダイヤモンド・オンライン), https://diamond.jp/articles/-/375159】。
また通販会社のアスクルや、その取引先である無印良品のネットストアまで巻き込まれ、一時受注・出荷がストップするなど被害が連鎖しました【アサヒもアスクルも無印良品も…なぜサイバー攻撃が増えたのか(ダイヤモンド・オンライン)
, https://diamond.jp/articles/-/375159】。
もはやサイバー攻撃によるリスクは一企業だけの問題ではなく、サプライチェーン全体や社会生活に波及しうることが現実に起きています。

高市首相は経済安全保障の一環として「サイバーセキュリティ庁」の新設構想も提唱しており、官民一体で日本全体のサイバー防衛力を高めようとしています。重要インフラを所管する各省庁のサイバー対策を統合し、迅速に対応できる専門機関を作ることは急務と言えるでしょう。
国としてもサイバーセキュリティ関連企業への支援を強化し、「信頼できる国産技術」の育成を図るとみられます。

製造業の経営者にとっても、サイバー攻撃への備えは最優先課題です。
ITシステムは今や水道や電気と同じく企業活動に欠かせない社会インフラとなっています。
専門家は「日本企業は経営層が旧来の意識を改め、社会の公器としてサイバー防衛に本気で取り組む覚悟を持つべきだ」と警鐘を鳴らしています【アサヒもアスクルも無印良品も…なぜサイバー攻撃が増えたのか(ダイヤモンド・オンライン), https://diamond.jp/articles/-/375159】。

新政権のもとセキュリティ基準や情報開示のルールが強化される可能性もあります。
自社の機密情報や生産設備を守るため、今一度ファイアウォールやウイルス対策、社員のセキュリティ教育など万全か見直しましょう。

不測のサイバー事故が起きても事業を継続できるよう、バックアップ体制やサイバー保険の検討も有効です。

製造業経営者が今取り組むべき4つの対策

最後に、新政権の動きを踏まえて製造業の経営者が備えておくべきポイントをまとめます。
チャンスを逃さずリスクに備えるために、次の4つの対策に注力してみてください。

  1. サイバーセキュリティ対策の強化
    前述の通り、企業規模を問わずサイバー攻撃の脅威が高まっています。
    生産設備や機密データが狙われると製造業は致命的なダメージを受けかねません。
    自社のセキュリティ対策を総点検し、脆弱性があれば早急に対処しましょう。
    具体的には、最新のセキュリティソフト導入、社内ネットワークの監視強化、社員へのフィッシングメール訓練実施などです。
    「攻撃は必ず来る」前提で準備することが重要です。
    万が一サーバーダウン等の被害を受けても事業継続できるよう、バックアップデータの確保や手動対応手順の整備もしておきましょう。

  2. 適正な価格転嫁とコスト改善
    原材料費やエネルギー価格、人件費の高騰が続く中、適切に販売価格へコスト増を転嫁していくことは企業存続の鍵です。
    「うちの会社は価格交渉なんて無理」と諦めず、今こそ取引先と真摯に対話しましょう。
    政府も毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と定め、中小企業が遠慮なく価格交渉できる環境作りを支援しています【価格交渉促進月間(経済産業省 中小企業庁), https://tekitorisupport.go.jp/topics/gekkan/】。
    自社の原価構造を見える化し、どの程度の値上げが必要かエビデンスを示して交渉することが大切です。
    同時に、社内のムダ削減や生産効率の向上にも取り組みましょう。工程改善や自動化によってコスト増分を吸収できれば、取引先への価格転嫁交渉もしやすくなります。
    幸い最近は取引先企業側も原価上昇を理解し、価格見直しに応じてくれるケースが増えています。
    この機会に収益改善のための価格是正に踏み切りましょう。

  3. AI・ロボットを活用できる人材の育成(人的資本経営)
    新政権のもとデジタル投資が進む今、製造現場でもAIや産業用ロボットの導入が加速するでしょう。
    しかし最新テクノロジーも使いこなす「人」がいなければ宝の持ち腐れです。
    そこで重要になるのが人的資本経営の視点です。
    人的資本経営とは「人材を資本(人財)と捉え、その価値を最大限に引き出す経営手法」のことです【人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~(経済産業省), https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html】。
    具体的には、従業員のスキルアップ研修や資格取得支援、新しい職場環境づくりなど人への投資を惜しまない経営姿勢を指します。
    弊社御津電子でも、AIやロボットを現場で活用できるエンジニアの育成に積極的に取り組んでいます。
    社員一人ひとりが生き生きと力を発揮できる職場を作ることが、ひいては企業の競争力アップにつながると信じているからです。
    中小企業こそ限られた人材を大切に育て、「人を生かす経営」に踏み出しましょう。

  4. 将来を見据えた早めの設備投資
    物価上昇や円安の影響で、機械設備や原材料の価格は将来的にさらに上がる可能性があります。
    「そのうち景気が落ち着いたら設備更新しよう」と先送りしていると、いざ必要なときにはコスト増で投資負担が重くなってしまうかもしれません。
    幸い高市政権は中小企業の設備投資を強力に後押しすると明言しており【高市首相の経済対策とは(スマート・ジャパン)※中小企業支援策について言及】、減税や補助金、低利融資などの支援策が充実してくることが期待できます。
    銀行や政府系金融機関とも連携を図りつつ、生産性向上に必要な設備やDXツールへの投資はできるだけ前倒しで実施しましょう。
    古い機械を騙し騙し使っていると故障リスクも高まり、結果的に損失を招く場合もあります。
    将来を見据えて攻めの投資を行うことで、新政権が目指す「成長と分配の好循環」にも貢献できるはずです。

おわりに

高市早苗新政権の掲げる政策は、日本の製造業にとって大きなチャンスと変化の波をもたらしています。
経済安全保障の強化による国内産業支援、エネルギー政策の現実路線への転換、防衛需要の拡大、デジタル・AI投資の推進など、追い風となる要素が数多くあります。
一方で、人材育成や働き方など取り組むべき課題も見えてきました。
製造業の経営者の皆さんは、ぜひアンテナを広く張って最新情報をキャッチし、新しい環境に素早く適応してください。
変化を前向きに捉え、新たな市場や顧客の開拓にも挑戦していきましょう。
人的資本への投資を惜しまず、社員とともに成長する企業こそが次の時代をリードします。
高市新政権のもと、日本のものづくりがさらに活性化することを期待しつつ、御津電子も引き続き皆様のお役に立てる製品づくりとサービス提供に努めてまいります。


参考資料:

  • 第219回臨時国会における高市内閣総理大臣所信表明演説(首相官邸), https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1024shoshinhyomei.html

  • 第219回臨時国会における高市内閣総理大臣所信表明演説(自由民主党), https://www.jimin.jp/news/policy/211670.html

  • 高市内閣発足、日本の半導体政策はどこへ向かうのか(Semicon.TODAY), https://semicon.today/archives/3006

  • 日米戦略投資からの産業活性化—高市政権が直面する外交課題(デロイト トーマツ グループ), https://faportal.deloitte.jp/institute/report/articles/001618.html

  • 太陽光依存にNO!高市とコバホークはエネルギー政策を変えるか?(キヤノングローバル戦略研究所), https://cigs.canon/article/20251009_9288.html

  • 「労働時間規制緩和」説明なし 所信表明演説で高市首相(下野新聞デジタル), https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/1216760

  • 価格交渉促進月間(経済産業省 中小企業庁), https://tekitorisupport.go.jp/topics/gekkan/

  • 人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~(経済産業省), https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html

  • アサヒもアスクルも無印良品も…なぜサイバー攻撃が増えたのか(ダイヤモンド・オンライン), https://diamond.jp/articles/-/375159