そもそもワークライフバランスとは
ワークライフバランス(WLB)とは、“仕事と生活の調和をとること”です。
簡単に言えば、働きながら家庭やプライベートの時間もしっかり確保し、どちらも充実させようという考え方です。日本では「仕事と生活の調和」とも呼ばれ、政府も2007年に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定し、国を挙げて推進してきましたmhlw.go.jp。
例えば内閣府はWLBを「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、(中略)…家庭や地域生活などにおいても、(中略)…多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義していますgo2senkyo.com。
つまり、仕事上の責任を果たしつつ、【家族との時間・地域活動・自己啓発など】自分の人生も大切にできる状態を目指すということです。
近年では働き方改革の流れの中で、企業も社員のWLB実現に向けた取り組みを強化しています。
私自身の過去の実体験
私自身、25歳からリクルートに勤め、正直、当時は寝る間も惜しんで「仕事・仕事・仕事」の毎日でした。全国転勤で知らない土地に行き、部下の帰りを待って毎日遅くまで働く中、ある日ふと「私は何のために仕事をしているのか?」と虚無感に襲われたことを今でも覚えています。
その後、35歳で結婚して家族を持つと同時に現在の仕事に転職し、製造業の工場の経営に携わることになりました。しかし当時担当した工場は赤字で倒産寸前…再び寝る間も惜しんでがむしゃらに夜中まで働き続ける日々が始まりました。
そんなある日、疲弊しきった私に妻がかけてくれた言葉にハッとさせられ、「このままではいけない」と強く感じたのです。
それからは、“家族と過ごす時間”と“仕事”の両方を大切にする生き方へとシフトしました。
朝はいつもより早起きして家族と過ごし、夜も家族との食事やお風呂を楽しんで子どもを寝かしつけてから仕事をするようにしました。そのように生活リズムを変え“家族と過ごす時間”が増えたことで、「誰のために、何のために仕事をしているのか」という悩みが自然となくなり、毎日が驚くほど充実するようになったのです。
これこそが、私なりの“ワークライフバランス”だと実感しました。
御津電子が考えるワークライフバランス
現在、私が経営する御津電子株式会社でも、ワークライフバランスは
「ワーク(仕事)が先」ではなく「ライフ(生活)が先」にあるべきだと考えています。
「誰のために、何のために仕事をしているのか?」と突き詰めれば、自分を支えてくれる家族や仲間のためという答えに行き着きます。だからこそ、その家族や仲間の生活(ライフ)こそ最も大切であり、その上に仕事(ワーク)が成り立つという発想です。
具体的な取り組みとしては、有給休暇の取得を会社として積極的に促しています。特に家族がいる社員には「お子さんの参観日や運動会などの行事には必ず参加してほしい」と伝えていますし、年に1回は大切な人との旅行のために有給を使うことも推奨しています。
ライフが充実してこそワークも充実する――これが御津電子の基本的な考え方です。実際、厚生労働省も長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進など、企業における仕事と生活の調和の取組みを推進していますmhlw.go.jp。会社として社員の生活を大事にすることは、国の施策とも軌を一にしているのです。
「やらないといけない時」が来たとき
とはいえ、経営をしているとどうしても会社の危機や「ここが正念場だ」というやらねばならない時が訪れます。実際、最近ある政治家が「ワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて、働いてまいります」と発言し、「全員に馬車馬のように働いていただく」とまで語ったことが物議を醸しましたnikkansports.com。この発言には賛否両論ありましたが、私自身も経営者として、その気持ちが全く分からないわけではありません。追い込まれた状況では、一時的にWLBを度外視してでも走り抜かなければならない局面もあると思うのです。
ただし重要なのは、それをずっと続けないことです。あくまで期間を決めて「この1ヵ月だけは全集中する」「半年間死に物狂いで頑張る」といった具合に、一時的にバランスを崩すのはやむを得ないとしても、その状態を常態化させないことが肝心です。
現実として経営には厳しい局面がつきものですが、そうした時こそ仲間の力を借り、一丸となって乗り越えつつ、危機を脱したら速やかに元のバランスある働き方に戻すことが大切だと考えています。
究極のワークライフバランス
では、危機の時以外で普段から心がける究極のワークライフバランスとは何でしょうか。
私が思うに、それはそもそも上述のような危機やピンチを起こさないために日頃から準備することに他なりません。
その準備とは、一言で言えば「人にしかできない仕事」に集中できる環境づくりです。
言い換えれば、誰にでもできる定型的な仕事は思い切ってロボットやデジタル技術(DX)に任せ、人間は人間にしかできない創造的な業務や意思決定に力を注ぐことです。
実際、ある製造業の企業では「ワークライフバランスを整えるためには、ある程度余裕を持った人員配置が必要」と考え、思い切って人員増強や生産設備の自動化を進めた結果、残業削減や有給取得率の向上につながり、男性も女性も育児休業取得率100%を達成したという例がありますchusho.meti.go.jp。
このように将来のリスクに先手を打ち、業務効率化と働きやすい職場作りを両立させていくことこそが、私の考える究極のワークライフバランスです。
最後に
今回、ある政治家の過激な発言をきっかけに、「働くとは何か」「ワークライフバランスとは何か」を改めて考えた方も多いのではないでしょうか。
確かに、ときにはワークライフバランスを無視してでも働かざるを得ない時もあるでしょう。しかし、だからといって普段からそれを良しとしていては、本当に大事なものを失ってしまいかねません。
大切なのは、そんな非常事態が来ないように今から備えることです。
平時から社員の生活を大事にし、働きやすい環境を整えておけば、いざというときにも乗り越えられる土台ができます。そして何より、誰もが心身ともに健康で、やりがいを感じながら働ける職場こそが、企業の持続的な成長につながると信じています。
それが、御津電子が目指す“ワークライフバランス”の姿です。
参考文献:
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仕事と生活の調和とは(定義) (内閣府 男女共同参画局) https://wwwa.cao.go.jp/wlb/towa/definition.html
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仕事と生活の調和 (厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/index.html
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高市早苗氏は「誰よりも総務省職員のワークライフバランスを実現した」けど…専門家が発言に苦言 (日刊スポーツ) https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202510080000348.html
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2024年版「中小企業白書」 第4節 良質な雇用の創出と働き方改革 (中小企業庁) https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_4_4.html

中小製造業の経営者でしか知りえないリアルな情報を発信
【主な経歴】リクルート出身。数々の個人賞を受賞し、GMを歴任
【御津電子での実績】苦しい工場経営を1年でV字回復。技術力と人材育成を通じて、日本を代表する企業を目指している
【講演実績】
おかやまテクノロジー展(OTEX)2022 『仲間と共に歩むV字回復ストーリー』
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